世界を濡らす、やまない雨




彼を思い出した瞬間、後ろから吹き抜けていった風の記憶を思い起こした。


「え、道木さん?」

目の前で、彼────、角谷 永智が慌てている。


彼は鞄の中をガサガサと探ると、くしゃくしゃになったポケットティッシュを私の前に差し出してきた。

それでようやく、私は自分の頬を濡らす熱いものの存在に気がつく。

手の平で触れると、本来透明なはずのそれは、ファンデーションと混ざって少し濁っていた。


「ごめん。俺、何か悪いこと……」


困ったように眉尻を下げる角谷に、私はゆるゆると何度も首を横に振る。


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