世界を濡らす、やまない雨
「違う……私、ちゃんと覚えてる」
何度も首を振りながらそう言うと、角谷は眉尻を下げたまま困ったように笑った。
なぜ涙が出たのかは、自分でもよくわからない。
でも、私は多分自分が考えている以上に嬉しかったのだ。
角谷 永智が、高校三年生の一年間ただ同じ教室の中で座っていただけの私のことをまだ覚えていてくれたことが。
オフィスが立ち並ぶ道端で、こんな私に気がついてくれたことが。
角谷は私の涙が止まるのを黙って待っていてくれた。
そして私の涙が止まると、その理由も聞かずただポケットティッシュを私の手に握らせてくれた。
「ありがとう。ごめんなさい……」
涙を拭いて冷静になると、ひさしぶりに顔を合わせた角谷の前で無防備にもこんなに泣いたことが恥ずかしく思えた。