Octave~届かない恋、重なる想い~
 複雑な家庭環境の生徒が多く、学校だけで何とかできる問題ではなかった。

 その前に採用された中学校は、比較的落ち着いた学校だったので、きちんと挨拶ができたし、授業もみんな真剣に取り組んでいた。

 同じ市内だというのに、差が大きすぎてショックを受けた。

 それでも、たまに返ってくる挨拶や、慕ってくれる生徒の可愛らしさに励まされながら、毎日を過ごしていた。

 この学校で働く期限も、もう少しで切れる。

 雅人さんと結婚するということは、妻として選挙の応援もしなくてはならない。

 法律で選挙活動が禁止されている今の職を続けることは、かなり難しい。

 それに、自分が今のような勤務を続けるとしたら、父や母が心配することが予想された。

 この仕事が好きだけれど、採用試験にはもう3回失敗している。

 このまま仕事と受験勉強と議員の妻として動くことは、不器用な私には不可能……。

 私は期限を延長することなく、そのまま退職することにした。
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