Octave~届かない恋、重なる想い~
 そうと決まれば、早く管理職に伝えなくてはならない。

 私の代わりを探さなくてはならないのだから。

 1・2時間目、空き時間の多い家庭科は、こんな時に少し助かる。

 職員朝会が終わってすぐ校長室へ行き、期限が切れたらそのまま退職することを伝えた。

 退職の理由を聞かれ、正直にこう答えた。


「結婚します。そして、父の介護を手伝いながら、夫の仕事のサポートをする予定です」

「そうですか……宇佐美先生はまだお若いし、やる気もあるから勿体無いですが、色々考えての決断だったのでしょう。
 応援しますから、どうぞ頑張って下さい。
 ところで、ご主人になる方のお仕事は?」

「今は、会社員です」

 今は、まだ。

 それ以上聞かれないことを幸いに、校長室をあとにした。

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