明日なき狼達

反撃の狼煙

 神谷の右足の具合が良くなる迄、児玉達は浅井のマンションから一歩も出なかった。両隣の部屋も浅井が借りていた部屋だったので、別々になった。

 神谷は加代子と共に902、児玉と松山が901、903に野島と梶が寝泊まりする事になったが、昼間は皆、神谷と加代子が居る部屋に集まっていた。

 神谷の傷は思った以上に重く、高熱も一週間程続いた。

 それでも十日程で足の腫れは引いて来た。

 児玉の処置が迅速だったから、傷口の化膿は無くなった。だが間違い無く足は不自由になるだろう。

 その間、澤村と浅井は吉見に関する情報と、滝沢の身辺を洗う事に時間を注いだ。

 吉見とダイヤモンドの行方はまるで判らなかった。元々内調の職員だから、事件に絡んだからといって、簡単には外に情報は漏れない。寧ろ、内調自体は隠し通してしまおうとする所だ。

 澤村は辻に再度会いに行った。流石に、横浜での事件が辻の耳に入っていた。

「先生の方にはどういうふうに話しが……」

「うん。儂の耳にはマルエス扱いの荷物の中に紛れ込ませたダイヤが何者かに持ち去られたとしか伝わって来ておらんが」

「滝沢はやはり血眼に?」

「それがどうもおかしいのじゃ。あれぐらいの奴になれば、六千億や七千億の金など又何時でも手に出来るのだが、アヤツは昔から吝嗇な奴でな、例え一円でも他人から掠め取られるのを非常に嫌がる。
 まあ、だからこそ青山とかいう男をああも惨たらしい殺し方をした訳じゃが」

「それが余り騒いで無いと……」

「うむ。一向に動いている様子が無い」

「どういう事なのでしょうか」

「考えられるとすれば、盗まれたダイヤが実は偽物であったとか、もしくは、既に吉見と共に滝沢の手に渡ったか……ダイヤが偽物だったなら、別な船便なり、何らかの形に荷が持ち込まれた形跡が現れてもよさそうだ。それが無い。となるとだ、一番の可能性は……」

「既に滝沢の手に……」

「そうみた方がいいだろう」

 話しを終えた澤村は、すぐに浅井に電話し、

「滝沢の関連会社でTSコーポレーションというのがある。そこの動きを調べて欲しい。特に、人の動きに注意して欲しい」

 その日の夜、浅井が驚くべき情報を仕入れて来た。

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