明日なき狼達
「見張り役と、運転手の若い奴らは、行く途中で合流する事になっている」

「判った。で、何時頃に向こうに行く?」

「9時に此処を出る。午前中のラッシュ時ならば、警察の検問も無いし、パトロール中の奴らも滅多には車を停めたりはしないからな」

 二人は暫く部屋で時間を待つ事にした。何時間か後の事を思うと、二人共自然に無口になっていた。

「行こうか」

 と先に口を開いたのは、浅井だった。

 マンションの駐車場には、この日の為に用意したハマーがあった。浅井が運転席に座った。途中で、浅井の若い者を三人拾い、黄に電話を入れた。

「きっかり30分後、そっちに着く」

(判った。私の手下がマンションの前で見張っている。まだ相手は来ていない)

 黄の経営する売春倶楽部のあるマンションは、以前話しをした喫茶店の近くにあった。

 新宿御苑の目の前で、車の通りは少ないが、昼時だと近所のサラリーマン達が御苑に集まるので、その事が少し気掛かりだ。

 電話をしてからきっかり30分後、浅井の運転するハマーはマンションの前に着いた。

 黄が言っていた見張り役らしき者の姿が見えない。マンション前に何台か駐車されている車のどれかにでも潜んでいるのだろうか。

 運転手役の若い者がそのままハマーに残り、澤村と浅井は見張り役の二人を引き連れてそのマンションに入った。オートロックになっているから、黄のルームナンバーをインターホンで呼び出した。扉がすぐに開き、一階の階段脇に見張り役の一人を潜ませて、澤村達は六階迄エレベーターで上がった。

 もう一人の見張り役を六階と七階の中間に潜ませる事にし、澤村と浅井は黄の経営する売春倶楽部の扉の前に立った。

 浅井がドアノブに手を掛けようとした時、澤村の頭の中で説明しようが無い嫌な予感が突如として沸き起こった。

「待て!」

 浅井の手を掴み、目で壁に寄れと合図を送った。浅井も、澤村から何かを察知した様子で直ぐさま扉の横に避けた。

 澤村が銃を取り出し、扉横のインターホンを押した。

 五秒……

 十秒……

 扉は開かない。

 澤村と浅井は周囲に神経を張り巡らせた。

 瞬間、上の階から悲鳴が聞こえて来た……

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