明日なき狼達

人質

 悲鳴と共に二人は身体を低くし、階段の方へ向かった。と、その時、インターホンを押した部屋の奥隣から、銃を構えた男が出て来た。

 浅井の後ろに着いていた澤村は、振り向きざまに銃を撃った。

 五メートルと離れていない距離から発砲した為、撃たれた男は跳ね上がるようにしてその場に倒れた。

 今度は廊下の奥にある非常口の扉が開き、何人かの男が発砲して来た。

 マンション内の廊下だから、身を隠せるような場所が無い。とにかくこちら側の階段から逃げなくてはならない。

「おいっ!聞こえるか!おいっ!」

 浅井がイヤホンマイクで見張り役と車に残した若い者に怒鳴っている。

 応答が無い。

 嵌められた……

 今更その事をどうこう考えている場合では無い。この場を逃げる事が先決だ。だが逃げ道は?

 廊下と階段の繋ぎ目の角から、上の階の様子を見て、浅井が階段に向かって飛び出した。

 澤村が後に続こうとした時、上の踊り場からも狙い撃たれた。

 思わず転がるようにして階段を降りようとした。

「危ないっ!」

 浅井の声に振り向くと、いつの間にか一人の男がすぐ目の前に来ていた。手には大きな青龍刀があった。

 男が青龍刀を振りかざした瞬間、轟音と共に身体が跳ね上がり、錐揉みをするかのようにして澤村の脇を転げ落ちて行った。

 二人は跳ぶようにして階段を降りた。

 五階、四階、三階……

 二階の踊り場に降り立った瞬間、浅井が

「あっ!?」

 と言って倒れた。

 銃の撃ち合いで聴覚が麻痺していたせいか、どっちの方角からの銃声かが判らない。一階の物陰から銃を撃って来る者、上の方から撃って来る者、二人は挟み撃ちになっている。

 浅井は左腕か肩の辺りを撃たれたようだ。

 悲鳴が建物中にこだましている。

 二階の廊下に、子供が居た。座り込んで泣き喚いている。傍らに、呻き苦しんでいる母親らしき女性が倒れている。

 澤村は咄嗟に浅井を促し、倒れている母親の元へ走った。

 その部屋の扉が半開きになっている。

 浅井が子供を右手で抱き抱え、澤村が母親を引きずりながら、その部屋に入ろうとした。

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