夢の欠片
「おーっす羚弥。お前遅すぎんだよ。どんだけ遅刻すんだって感じだわ。それよりさあ、殺人事件あったの知ってる?」


狙い通り休み時間に教室に入った俺に、友達の本田学(まなぶ)が声をかけてきた。


「え? いや、俺そんなにテレビ観ねえから分かんねえわ」


それにしても腰が痛え。結構強く打ってたんだな。


背を伸ばして腰を摩る。


「そっか。子どもが親を殺すっていう凄い事件だったから印象が強くてさ」


「ふーん。確かにそれは凄いな。よほど恨みがあったか、気が狂ったかどっちかだろうな」


「そうだろうな」


そんな激しい感情なんか、今の暮らしからは想像もできないな。


「なあ、羚弥。その親を殺した事件さ、隣の県で起きたらしいんだよね。もし犯人がここに来たらどうする?」


“隣の県”あたりから怖がらせるような口調になって煽ってきたので、煽り返してやることにした。


「もし来たとしたらお前を盾にして逃げるかもな。ハハハ」


「てめぇ……いいよいいよ、俺は勇敢な人として名声が上がるだろうからな。そしてお前はだっさいやつとして世間一般に知られていくのさ!」


俺は鼻で笑った。


「俺の友達が襲われてますーって警察に連絡した時点でヒーロー同然だから」


「汚ねえぞ! 俺だってヒー」




キーン コーン カーン コーン


学が何か言いかけた時にちょうどチャイムが鳴り、そそくさと席に着いた。その直後、扉が開いて社会科の担当教師が入室してきた。それを見計らって、号令係が起立、気をつけ、礼の一連の動作を指示し、授業が始まった。


次々と教科書やノートを開く者が現れる中、俺は間も無く強烈な睡魔で夢の中へと旅立っていった。
< 6 / 85 >

この作品をシェア

pagetop