金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
私は静かに席を立ち、岡澤の前まで歩いた。
岡澤も、立ち上がって私を正面から見下ろす。
「……三枝。こういうのは、証拠がないとな」
勝ち誇ったように、岡澤が言った。
「……そうですね。それに関しては私が甘かったかもしれません。…………でも」
私は、力を込めた右手を振り上げ、岡澤の頬を思いきりひっぱたいた。
パシン、と乾いた音が、応接室に響く。
「恩田先生は……あんたとは違う。先生を……侮辱しないで……!!」
自分でも驚くほどの大声が、腹の底から出た。
岡澤も私がこんなに感情をあらわにするとは思わなかったらしく、頬を押さえてただ目を見開いている。
「あんたのせいでずっと、男の先生なんてろくでもないって思ってた……近づくと、吐き気がすることさえあって……それが苦しくて……っ」
卒業したら忘れられると思ったのに。
新しい自分になれると思ったのに。
私に待っていたのは、岡澤の幻影に取りつかれた毎日……
「私はあんたの写真を、毎日傷つけて、それで……なんとか精神状態を保って……」
泣いたら負けを認めるみたいだから泣きたくなんてないのに……私は泣きながら、声を絞り出す。