金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「そんな私を……恩田先生は助けてくれた……逃げずに、向き合ってくれた……」



最初は口だけだと思った。

いい先生を気取って、それに自分自身が酔うだけで満足……そんな岡澤みたいなやつだって、勘違いしていた。



「三枝さん……」



いつの間にか背後には恩田先生が居て、私の肩に手を置いて何とか落ち着かせようとしていた。



「だから、私は……また、信じてみようって思えた……中にはいい先生も、いるかもって……」



そこまで言い終えると私はやっと落ち着きを取り戻してきて、制服の袖でごしごしと涙を拭い、鼻ををすすった。

自分が何を言われようと、恩田先生の人間性だけは、岡澤なんかに貶(おとし)めらたくなかった。



「……そんなにも、俺はお前に……」



さっきまでとどこか表情の変わった岡澤はぼそりとそう呟くと、肩で息をする私、そしてその後ろに居る恩田先生を一度ずつ見て……


のろのろと鈍重な動作で、床に膝をつき、そして……


私たちに向かって、ゆっくりと土下座をした。


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