金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「沖縄(ここ)に来たら逢えるんじゃないかと思ってた……あの日から小夜子を忘れた日は一日もないんだ……逢いに来てくれて、ありがとう」
私は自分が千秋だとばれないように、泣き出しそうになるのを堪えて微笑した。
自分を抱き締めながらほかの女の人の名を呼ぶなんてひどいと、本当のことを告げてひっぱたけたらどんなにいいだろう。
私には、それができない。
こんなに嬉しそうな先生を夢から醒ますなんて残酷なこと、できない……
「小夜子……」
――――キスされる、と思った。
優しい動作で私の顔を両手で包み込み、先生が私を……ううん、小夜子さんを愛しそうに見つめた。
このままキスをすれば、先生はきっと幸せな気持ちになれる。
だからただ目を閉じて待てばいいだけなのに……
私の口が、勝手に言葉を紡ぐ。
「……今の秋人には、大切な人が居るんじゃないの?」
声を出したらばれてしまうかもしれないのに、私は小夜子さんの振りをしたままで問いかけた。