金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

先生は驚いたように目を見開き、それから言いづらそうに、瞳をそらしながら言った。



「……居る。僕よりずっと年下で、一見か弱そうに見えるのに……強くてきれいな心を持った、僕には勿体ないくらい素敵な子……」



……先生、私のことそんな風に思ってくれていたんだ。


思わず溢れそうになる涙を堪えながら、私はお芝居を続ける



「こんな所を彼女が見たら、きっと……ショックだと思うわ。もう、ホテルに戻ったら?」



――――お願い、先生。私のこと、思い出して。

そして現在(いま)の世界に、戻ってきて……



「……そう、かもしれない。でも、だとしても……せっかくこうして逢えた小夜子を手放すなんて……!それに三枝さんは、弱い僕を知ってる。きっと僕が小夜子を選んだとしても彼女は……」



だめだ――――もう、限界。



私はそれ以上聞きたくなくて、先生の唇を強引に奪った。


そして大声で泣き出してしまわないうちに震える唇を離すと、一言、こう告げた。





「さよなら……」





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