金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「小夜子……?待って、まだ話したいことはたくさん……!!」
先生の言葉を振り切って、私は砂浜を駆け出した。
先生は酔っているし、私、足には自信があるからきっと追いつけない。
追いつかなくていい。こんな汚い顔は見られたくない。
こんな思いをするなら……小夜子さんの振りなんて、しなければよかった。
一気に襲ってきた弱気な自分に押し潰されそうになりながら、私は夢中で走った。
そしてホテルの庭に戻ってきたとき……前を見ていなかった私は、誰かに思いきりぶつかってしまった。
「ご、ごめんな、さ……」
「いや、こっちこそ…………三枝?」
――しまった、と思った。
ぶつかった相手は、私がこんな顔をしているのを一番見られちゃいけない……
昼間私のために本気で怒ってくれた、土居くん、だったから――――。