金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

答えに迷っていると、土居くんの肩越しに先生が見えた。困惑した表情を浮かべて、私たちを見てる。


昨夜の仕返しを、なんて思った私はそうとう追い詰められていたのかもしれない。

だけどその刺々しい気持ちが、私の口を勝手に動かしていた。



「……わかった。最初は友達からでいいなら……」

「……マジで?」

「うん……こんな私でよかったら、よろしくお願いします」



ぺこりと頭を下げて顔を上げたときに、先生の傷ついた瞳が目に入った。


私だって、同じくらい……ううん、先生よりもっと傷ついたんだから、これでおあいこだよ――――。


そう思って、まるで先生に見せつけるかのように土居くんに微笑んで見せる。

けれどやり返したからといって心が晴れることはなく、むしろ私の心は重たくなるばかりだった。


土居くんは私の手を取り、班の皆と合流するとすぐに私とのことを嬉しそうに報告した。


表面上は祝福しながらも、戸惑いを隠せない皆――特に有紗の視線が痛かった。

きっと私が土居くんと付き合うことにした理由を打ち明けたら、本気で怒ってくれるんだろうなと思った。

でも、今そうされたら心が潰れてしまいそうだから……

私はつとめて幸せそうに振る舞い、有紗の思いやりに気付かないふりをした。


< 224 / 410 >

この作品をシェア

pagetop