金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
答えに迷っていると、土居くんの肩越しに先生が見えた。困惑した表情を浮かべて、私たちを見てる。
昨夜の仕返しを、なんて思った私はそうとう追い詰められていたのかもしれない。
だけどその刺々しい気持ちが、私の口を勝手に動かしていた。
「……わかった。最初は友達からでいいなら……」
「……マジで?」
「うん……こんな私でよかったら、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて顔を上げたときに、先生の傷ついた瞳が目に入った。
私だって、同じくらい……ううん、先生よりもっと傷ついたんだから、これでおあいこだよ――――。
そう思って、まるで先生に見せつけるかのように土居くんに微笑んで見せる。
けれどやり返したからといって心が晴れることはなく、むしろ私の心は重たくなるばかりだった。
土居くんは私の手を取り、班の皆と合流するとすぐに私とのことを嬉しそうに報告した。
表面上は祝福しながらも、戸惑いを隠せない皆――特に有紗の視線が痛かった。
きっと私が土居くんと付き合うことにした理由を打ち明けたら、本気で怒ってくれるんだろうなと思った。
でも、今そうされたら心が潰れてしまいそうだから……
私はつとめて幸せそうに振る舞い、有紗の思いやりに気付かないふりをした。