金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
どうしてもっと早くこうしなかったんだろう……
ベッドの上で目を閉じた私は、心の中でそう呟く。
有紗と菜月ちゃんはもう寝てしまった。私の身体の両脇で。
二人とも私の話を聞くと盛大に泣いて、そして代わる代わる私に抱きつき、いろんな言葉をかけてくれた。
『気づかなくて、ごめんね』
『千秋は頑張ったよ……土居にすがりたくなるのもわかる』
――これは、有紗。
『先生が千秋ちゃんにしたことは最低だけど、でもそんな事情があったら責められないじゃない……』
『イライラするなんて言って、ごめんなさい……』
そしてこれは菜月ちゃん。気の強そうな彼女まで泣くなんて、驚きだった。
二人に話したことで、何かが解決したわけじゃない。
状況は何も変わってないし、明日はきっと土居くんにも先生にも顔を合わせる。
だけど二人の涙は私の心の不純物をさらさらと洗い流してくれる、きれいな水でできていたみたいで……
今、心の中に残っているのはただ一つのシンプルな気持ちだけ。
――――先生が、好き。
川底が淀んでいたときは見えなかった、きらきら光る小石みたいな想いが、二人のおかげで姿を現した。
一度はなくしかけたそれを私は大切に拾い上げて、そっと胸にしまった。
先生と、向き合わなくちゃ……今度は逃げないで、ちゃんと。