金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

――八月に入り、部活を引退した有紗に誘われていつもの三人で勉強会をした。

場所は、私の部屋。


みんなで集まると勉強がはかどらないというのはわかっているけど、毎日一人で勉強してばかりなのも、心によくない気がするし……


そんな言い訳をつけて始めた勉強は、やっぱり途中で脱線する。



「――千秋、恩ちゃんとデートしてる?」



有紗が三角関数にさじを投げ、問題集を閉じて私に訊いた。



「夏休みに入ってから一回だけね……でも、やっぱり受験生だからって、気にしてるみたい」


「私のとこも全然構ってくれない。私は自分のレベルに合った大学選んでるから大丈夫って言ってるのに……やっぱり先生だからなのかな」


「でも千秋のとこは、今遊んどかないと会えなくなるのに……」


「そうだよね……」



勉強疲れと、好きな人に会えない寂しさから、私たちはそろってため息をついた。


外は晴れ渡っているのに、こんな小さな部屋で勉強ばかり……

冷房をかけているから閉まっているはずの窓の向こうから聞こえる蝉の声が、いつもの夏よりもうるさく感じる。


高三の夏ってこんなに憂鬱なものなんだな……


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