金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「ごめ……」


慌てて涙を止めようとするけどそれができなくて、私は鞄からハンカチを出して顔を押し付けた。


先生がいなくなって、まだ日の浅い頃は……こんな風にどうしても泣いてしまう夜が何度もあった。


だけど、受験や、それが終わってからの新生活の忙しさの中にいれば、気持ちが紛れたからかいつの間にか泣かなくなってたのに……


どうして、今になってこんな……



「千秋ちゃん、また一人で我慢してたんでしょう。大学の友達に、先生のこと話してないの?」


「…………う、ん」


「土居は何やってんのよ、あいつ千秋を支えるために一緒の大学にしたんじゃなかったの?」


「土居くんは……」



大学に通い始めて始めのころは、“悪い虫がつかないように”と本当に私と行動を共にしてくれていた土居くん。


だけど、そんな彼に今年の春、新入生の彼女ができてから……

本人は今まで通りでいいと言ったけど、私がそれは彼女に悪いから無理だと言って、一人で行動するようにしたのだ。


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