金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「そっか……恩ちゃんが早く帰ってくるのを願うしかないね……」


「そうね……」



結局、それしかないってことは、わかってる。


でも、今日二人に会って、涙を流せたことはきっと私にとっていいことだ。


きっとあともう少し。もう少しだから。

それまで、頑張らなきゃ……



――二人と別れたころには、辺りは暗くなっていた。

昼間の暑さも和らぎ、ススキの生い茂る空き地を通りかかると、コオロギの大合唱が耳に心地いい。


ふと、足を止めた私は空を見上げてみる。

そこに浮かぶ月は、十五夜を前にして明るく丸々としてきた。


少しだけ欠けたその姿が、私に勇気をくれる気がする。


本当に輝けるまで、あと少しだよって。

ほんのちょっとの辛抱で、まんまるに満たされるよって……



――不意に、強い風が吹いた。


ススキがさわさわと揺れる音がして、そして、同時に……


私のポケットの中で、携帯が震えた。


何気なく確認したディスプレイに表示されたのは……


ずっとずっと待ち続けた


私の大好きな人の名前。


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