金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
――指が震えて、上手く画面にタッチできない。
それでなくても最近やっとスマホに変えたばかりで、誰かから電話がかかってきても間違えて切ってしまうくらいなのに。
やっとの思いで“応答”をタッチした私は、高鳴る胸を押さえながら、携帯を耳に当てた。
「…………はい」
久しぶりの電話なのに、掠れたような変な声が出てしまった。
だけどそんなこと気にならないくらい、私は電話の向こうのいるはずの彼の気配を感じ取ろうと、必死で耳を澄ませていた。
そしてしばらく間があった後、私の待ち望んでいた声が、鼓膜を揺らす。
『久しぶり……千秋。元気でしたか?』
たったそれだけの言葉で、つま先から頭のてっぺんまでが愛しさで満たされていく気がした。
先生……
先生だ……
本物の、先生の声……
あたたかい涙が、私の頬を伝う。