金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「そうです、最近引っ越してきたばかりですが。庭のある家に住むのが夢だったので、借家だけど気に入ってます」
「前に住んでたおばあさんは……?」
挨拶を交わす程度の関わりしかなかったのに、私は彼女の安否が気になっていた。
ただ引っ越しただけであってほしい……
そう願いながら、恩田に聞いた。
「大丈夫、彼女は元気ですよ。ただ庭仕事で腰を痛めてしまったらしくて、今は息子さんと住んでるんだ」
「そうですか……良かった」
私は心から安心してため息を付く。するとそれを見た恩田がこんなことを言った。
「三枝さんは、僕……というか男の先生以外にはそんな顔もするんですね」
「…………え?」
「思ってたよりも優しい心を持った子で良かった」
……ああ、失敗した。
ずっと仏頂面を作り続けてたつもりだったのに、どうやらそれは崩れてしまったようだ。
私は舌打ちをしたい気持ちでくるりと踵を返す。