Enchante ~あなたに逢えてよかった~
その家は閑静な住宅街の一角にあった。
女性が一人で暮らす家としては予想以上に広い敷地の
二階建ての邸宅だった。
ガーデニングの趣味もあるのだろうか。
美しく刈り込まれた芝とバランスよく配された玉砂利の庭には
手入れの行き届いた花壇が設えてあった。
玄関までのアプローチを季節の花々が美しく彩っている。
花に出迎えられる帰宅はさぞ和むことだろう。
澤田はふと実家を思い出した。
実家で暮していた学生時代は庭や玄関の佇まいなど
特に気を止めることなどなかったが
そうか、こういうことだったのかと
今頃になってやっと母親の心遣いを理解した。
あの頃、きれいに咲いたねとでも言っていれば
母は喜んだのかもしれない・・・
昔の記憶をりながら感傷に浸りかかっていた澤田の意識は
大和が押したインターフォンの音で今に引き戻された。
「はい」
「こんにちは 大和です」
「今、開けます」
ドアが開いた瞬間。ぱっと空気が一変したような気がした。
「いらっしゃい」
「どーも。えーっと・・・こちらが松平絢子さんです」
「はじめまして。松平絢子です」
「で、こっちはボクの後輩の澤田くん」
「澤田です。はじめまして」
確かに大和の言うとおりだと、ほんの数分前の会話を思い出した澤田は
僅かに口元を緩めた。その笑みは思い出し笑いだったのに
タイミングよくはじめましての挨拶に重なって
図らずもにこやかな挨拶となり、絢子に好印象を与えたようだった。
「すごく素敵な方でびっくりしちゃった。
大和君、用心棒だなんていうからてっきり・・・」
「アハハ。屈強なマッチョマンだと思いました?」
「ええ、ちょっとね」
「よかったわ~。あんまりムキムキしてるタイプは苦手なのよ」と
屈託無く笑う顔が何とも楽しそうで爽やかな彼女に
澤田が抱いたのは好い印象だけではなかった。
「早速だけど。まずは家の中を見てもらいましょうか」
そう言って絢子は軽やかに髪を揺らし身体を返して
「どうぞ。上がってください」と大和と澤田を笑顔で促した。