Enchante ~あなたに逢えてよかった~
屋内を案内する絢子のしなやかな後姿や
身振り手振りを交えて話す柔らかい表情や声のトーン。
すれ違い様にその身体からかすかに香る透き通った甘い香り。
その全てに自分の中の男を刺激される、と澤田は焦った。
大和が絶賛するところのフェロモンや色気を
彼と同様に感じてしまったのを苦々しく思ったほどだった。
しかし、それよりも何よりも、第六感が働いた。
シックスセンス――今までその言葉にならない漠然とした感覚を
信じた事がなかった澤田は、この不思議な高揚感がとても新鮮だった。
「で、こちらの部屋がゲストルーム。向いは私の部屋。
隣はトイレ。その隣はシャワールーム」
「二階は二部屋だけ?」
「そう。でも私の部屋は広いの。二部屋分くらいあるかも」
「見せて欲しいなあ」
「だーめ」
「やっぱりかあ。残念。絢子サンの寝室、見たかったなあ」
「見てどうするの?」
「そりゃ色々と妄想するんですよ」
「うっわー。やらしー。大和くんには絶対見せないし!」
大和と絢子の会話を聞きながら澤田はずっと感じていた。
試合に挑むのとは別の種類の甘やかな胸騒ぎを。
何時収まるのかも、収める術も知らない澤田は
その正体が何物で、どう変わっていくのかが知りたくて
屋内を一通り見終えてリビングでお茶のもてなしを受ける頃には
もう決めていた。
ここで暮せばきっと分かる。
この不思議な感覚の正体も、収まらない甘やかな胸騒ぎの理由も。
そして、それを呼び起こした絢子の事も。
そんな根拠の無い確信を抱くのは澤田の主義に反することだったが、
時には直感に任せてみるのもいいかと思った。
しかし、あれほど拒んでいた手前、大和にはどう話したものかと
考えていたところにその大和から声がかかった。
「じゃあ結論は改めてということにして、今日のところは失礼しようか」
断わる前提で訪問を承知したのだから、それを踏まえての大和の計らいだ。
否とは言えない澤田だったが、席を立ちかけた大和を制するように
「待ってください」と声を上げた。
「あの、松平さん」
「はい?」
「松平さんさえよろしければ、ぜひこちらにお世話になりたいのですが」
「えっ?!あ・・・あの」
絢子も即決されるとは思っていなかったのだろう。
不意打ちのような澤田の申し出に、泳がせた視線を大和へと向けた。
「よろしくお願いします」
テーブルに額がつきそうなほど頭を下げて微動だにしない澤田に
微苦笑を浮かべた大和が、宥めるように肩を叩き声をかけた。
「まあまあ、澤田くん」