Enchante ~あなたに逢えてよかった~

悪気があったわけではないとわかってはいても
あまりにも盛大に笑われて、絢子は意地になった。
「そんなVIPを家に置くわけにはいきません!」と
素気無くぴしゃりと言い放つと ふん、と顔をそむけた。


そんな絢子の様子に大いに慌てた二人が
代わる代わるとりなしを試みたけれど
すっかりご機嫌を損ねてしまったようで取り付くしまもなかった。


焦ったのは澤田だった。何とかしてくれと視線で大和に懇願すると
大和は「困りましたねぇ」と小さく呟いて頭を掻いた。


しかしそこは絢子に片思い中を公言して憚らない大和のこと。
彼女を攻略するために脳内収集しているデータの中から
とりなしにもっとも有効であろう「食」のカテゴリーから
彼女の好物である「中華料理」をはじき出した。


こういう場合、特に女性に対して誠意を見せたい場合は
相手が少し恐縮するくらいの大盤振る舞いがちょうどいい、というのが
大和の経験上の持論だった。目下の彼女のお気に入りでもあり
味も評判も、ついでに値段もいい店である
駅前のホテルの最上階にあるレストラン「桃林」をチョイスした。
そこのディナーコースをご馳走しますよ、と大和が提案すると
逸らされていた絢子の視線が大和へと戻され
一瞬の瞠目のあと、微笑んだ。


お茶を入れなおしましょう、と席を立ち
キッチンへと向う絢子の背中をみながら
ふぅと小さく息を吐いた大和は、澤田に耳打ちをした。


「何とか手打ちにできましたね」

「はい」


澤田は小さく頷いてほっと胸を撫で下ろしながら
絢子の好物が中華料理であることを脳内にインプットした。


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