Enchante ~あなたに逢えてよかった~

その日の夜、事の経緯を聞かされた三木と糸居は
ぜひ絢子に会ってみたいと言い出した。
帰京の予定を一日延ばすことにするから
翌日彼女宅へ移ってほしいと言う。


さすがにそんな急では先方に申し訳ないと
澤田は二人を説得したが、相手は三木と糸居だ。
無敵の口八丁と最強の屁理屈の二丁拳銃に攻められて
口述では術なしの澤田が勝てるわけが無く
結局は押し切られてしまった。
早速大和の携帯に連絡をしたのは三木だった。
事の次第を説明すると大和は「いいですよ」と二つ返事で
絢子との交渉を引き受けてくれた。


ほどなくして三木の携帯に大和から連絡がはいった。
絢子には明日の午後からの引越しを了承してもらったという。
三木と糸居も引越しのあとの掃除を手伝うという条件が
追加されていたが、交渉をこちらに有利に進めるために
大和が付けたものだろう。
「事後報告ですみません」と詫び口調のわりには
その声に悪びれた様子はなかった。



「でも君達二人が言い出したことでしたしねえ・・・このくらいは。ね?」

「はい。それくらい御安い御用です」

「あぁそうだ。ついでに庭の草取りとかもしてあげてくださいねー。
男手が無いですから外回りまではなかなか手が回らないらしくて」

「えっ・・・」

「何か問題でも?」

「いえ、全然」

「じゃ しっかりお手伝いしてください。お願いしますよ」

「はい」


快諾して通話を切った三木は
この人ってこういうヒトだったよねえ・・・とため息を吐いた。 


そして当日。


引越しと呼ぶにはいささか迫力に欠ける物足りない荷物は
車と部屋とを3人の男達が2往復して終了した。
静養と言っても元々長く留まるつもりのなかった澤田の荷物は
衣類や身の回りの物が入ったスーツケースが2つと
大小のラケットケースと大型のスポーツバック。
自身の試合を録画したビデオテープが入った箱と
書籍の入った箱がそれぞれ1個ずつ。ノートパソコンが一台。
そんな程度だ。


「荷物ってこれだけ??ウソみたいにあっさりしてるのね」


絢子が目を丸くして感心とも驚きともいえない声を上げたほどだった。



そんな絢子に三木が微笑みながら声をかけた。

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