Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「下から声をかけたんですけどね」
「気づかなかったわ」
ごめんね~と小さく肩を竦めた絢子の仕草と表情は
馴れた相手への気取りのないナチュラルさと愛らしさが感じられた。
それを向けられた大和に、澤田は舌打ちをしたくなるような思いがした。
自分もそれと同等か
それ以上の想いをもって接してもらいたい――と
澤田の胸の奥が甘く疼いた。
ああ、そうか。これが嫉妬か・・・
澤田にとって初めての感情だった。
もちろん恋愛の経験がないわけではない。
しかし「嫉妬」というものをこれまで感じたことがなかった。
決して浮ついた気持ちで付き合っていたわけではないし
相手を大切に想い、接していたつもりだった。
でも、どこか冷めていたかもしれない。
恋愛よりもテニスが、自分が優先だったという自覚は
澤田の中に確かにあった。
だから相手も澤田より優先するものがあって当然だと理解していた。
それが例え他の男と会うことであっても。
異性の友人くらい居て当然だ。その友人との約束が
自分より先に交わされたものであれば優先するのは当たり前。
そう思っていた。
だから『私が他の男と会ってもいいのね?』と問われた時に
構わない、と答えてきた。
それがどうして責められるのかも、涙されることになるのかも
澤田には理解できなかった。
でも恋の本質は違う。そんな正論で割り切れるものでもなければ
理解できるものでもない。もっと生々しく激しく熱く、時には醜い。
噴出す想いを抑えきれずに、我が儘に相手を求め執拗に焦がれて
相手の身も心も時間さえも独占したくて止まないものなのだ。
恋情と嫉妬の違いは紙一重。
それを澤田が知るのはもう少し先のことだ。
今はこの厄介で切ない初めての感情に少し戸惑いながらも
絢子から視線を逸らせないままでいた。
そんな澤田に大和が声をかけた。