ハルク



英語の時間が終わると私は、山崎が教室を出るより早く廊下に出た。

授業がまだ終わっていないクラスもあり廊下に人は少ない。

まっすぐ歩いて階段に向かった。
トイレに籠るにはこの棟の1階のトイレを使うことにしている。使う人が少なくて一番教室に近いトイレだ。

今日は登校時含めてこの階段を5往復していることになる。
階段を駆け降りて廊下を左に曲がった。
人気のないトイレ。
3個ある個室の一番奥の洋式に入った。

便宜の蓋を下ろしてその上に腰かける。

ポケットからスマホを取り出して、やっとメールを打てるとほっとした。

はるくからはメールは着ていなかった。まだ講義が終わらないんだろう。

メールの作成画面に早速文章を打ち込んだ。

『まだ講義中ですか?私は3時半すぎに学校が終わります』

そこまで打ってから、躊躇した。
最後の一文を消す。

新しい文を作った。
『まだ講義中ですか?』

その後。

『心配してくれてありがとう』

その後に続く文は迷って、こう打った。

『気持ちはとても嬉しいけど、来てくれなくても大丈夫』

手が止まる。

『大丈夫』

きっと大丈夫だろう。

はるくが来てくれるというのは嬉しい。
でも。
見られたくない。

それも本音だ。

迷惑も掛けたくない。

あんなに迷惑を掛けたくせに、よく思われたい、これ以上嫌われたくないと考えてる。

メール、送れない……
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