ハルク
きっと『来なくても大丈夫』とメールすれば『気にしないで』とメールは返ってくる。

それを私はわかっている。だから余計にメールを送れない。

はるくに『俺は気にしないよ。今から行くね』と言われるのを私は待っている。
はるくが優しい言葉を掛けてくれることがわかっている。それに甘える。
そんな小賢しいことしたくない。

でも私は今、それをしようとしているんだ。

駄目だ。はるくに『来て』なんて今の私には言えない。

蓋の上で体育座りをして両足を抱え込んだ。

膝の上に額を乗せて斜め下に見える床とドアの下の隙間をじっと見た。

外からの明かりが漏れて入ってくる。

日当たりのいいトイレに電気の明かりはいらなくて、窓から入ってくる太陽の光で充分だった。

そう。
涙は出ないんだっけ。

渇いた感情に揺り戻される。

私はメールを打ったままのスマホをポケットに入れて、立ち上がった。

個室のドアを開け、人がいない薄暗い廊下に出た。階段に向かう。

私は6往復目になるこの階段を急いで駆け上がっていった。
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