キスから魔法がとけるまで
車が止まったのは、自分なんかがとても入れないであろう、高級感がある和食の料亭。
そこの、何番目かの奥のお座敷の個室に私達は通された。やけに短く感じるスカートを、伸びる訳もないのに引っ張りながら、モジモジと隣に立つ。
準備を悟った様に、引戸の前で丁寧に幹部が名乗ると、すぐに相手の返事を確認する。そして、低姿勢で中に入る二人に続いた。
「本日は、ご足労、誠に有り難う御座います」
「うむ。気にする事はない。それより、その娘か?」
「はい」
「間違いではあるまいな?」
『あの~何の話を……?』
私は、先程から向けられる、取引先のおじさんの熱い視線に耐えかねて、幹部の一人に小声で尋ねる。
『優秀な人材が入ったと。君は何を訊かれても笑顔でハイと答えてくれれば良い』
『あ、はい……』
いきなり笑顔なんて、作れるか!
なんせ、身なりはそれなりに仕上がってはいるが、中身はどうせ引きこもりの根暗女である。
そんな、自分が、いきなり笑顔で、しかもお偉いさんの相手など、自爆もいいとこだ。
せいぜいボロが出ないように、するしかない。
私は、必死で笑顔を作り、ウンウンと、相づちを打つ。
「あの、今回のプロジェクトの資料を車に忘れたようなので、ちょっと失礼致します」
そう言って、何故か私一人を残し、二人は部屋をいそいそと出て行ってしまった。
部屋には、私と、目の前のおじさん。
ゴクリと喉を鳴らす暇もない程、私は緊張しきっていて、膝の上に上品に乗せた手は、じんわりと冷や汗で湿っている。
「君がね~、まさか本当にいたとは思わなかったよ」
「はい……」
「どれ、よく顔を見せてくれ」
そう言って、おじさんは身を乗り出すと、私の顎を強引につまみ上げた。
嫌でも絡む、おじさんの熱い視線。
気持ちが悪い!
私は少しの抵抗として、視線を逸らした。
それでも、おじさんには全くこたえていない。
「あの……何か?」
「確かにイイ女だな、宮城(みやしろ)の女だけある」
「え?」
そう思った瞬間。
私の身体はぐらりと畳に押し倒され、視界が天井にひっくり返る。
それと、同時に、おじさんの手がスカートの中へと滑り込むと、股をベタベタと触り出した。
こ、これは……せ、セクハラ!?