キスから魔法がとけるまで
ち、ちょっと!!やめて下さい!!
そう叫びたいのに、何故か声が出ない。
逃げたいのに、慣れない正座をしていた為、脚は痺れて動かない。
身動きを取れない私に、見下ろすおじさんは満足げに口角を上げた。
「お前さんに手を出したら、さぞかし奴は悔しがるんだろうな」
そう言って、汚ない手が胸元に伸びていく。
ダン!!
荒い音をたてて、引戸が力強く開けられる。
その音に思わず見上げると、鮮やかな茶髪が目に飛び込んだ瞬間。
その人は、づかづかと上がりこむと、まっしぐらにおじさんを殴り付けた。
「行くぞ」
そして、私の腕を掴むと引きずるように、外へと逃げ出した。
パンプスを履く隙も貰えなかった程、強引に。
「あの……」
人目が無い、路地裏に通りかかった頃。
かろうじで回収出来た鞄を、見下ろすと同時に、彼は勢いよく腕を離すと、険しい顔でこちらに振り返る。
「だから言っただろ!?人の忠告を蔑ろにしやがって!」
鮮やかな茶髪の緩いヘアーが吹き抜けた風に、優しくなびく。
カラコンをした青い瞳が、私を真っ直ぐとらえると、ドキンと胸に何かが響いた。
な、何だろう。
このドキドキは……!!
「おい、聞いているのか?」
そう言って近づく彼。
着ているスーツの胸には、ネームプレートが光っていて、思わず私の視線は釘ずけになる。
『宮城 アキラ』
ミヤシロ……?
「ミヤギだ」
口に出していたらしい。
「あ、あの~助けて頂き、有り難う御座いました。でも、何処かでお会いした事ありましたっけ……?どうして、私の事……」
「い、いや!そんな事あるわけないだろ?人違いだ。さっきのは忘れてくれ。あのジジイを知っていた……ただそれだけだ」
急にあたふたし始めた彼は、くるりと踵を返すと、勢いよく走り去っていった。
あ、パンプス……
ま、いいか……。
変な事されなかっただけ、良しとしなくちゃバチが当たる。
そう思った。