竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

それから桜子は、旅に出ると宣言したことですっきりしたのか、日本を離れるための準備を着々とこなしていった。

仕事を辞め、友人知人に挨拶を済ませたあと、二人で住んでいたマンションも退去の手続きをしてしまった。


エリがとめる暇などまったくなかった。



「せめて家くらい置いといてよ!」

「家賃払えないのに?」



そう言われればぐうの音も出ない。



「来月いっぱいまでは家賃振り込んでおくから、あとは自分で住むところを探してね」

そして「見送りはいらない。まず、トルコに行く」と、桜子は笑顔で日本を出て行き、エリは25歳にして路頭に迷いかけている。



もう25歳。自分で自分の面倒くらい、みられる?


脳内に桜子の声がこだまする。




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