ラララ吉祥寺

木島さんに急かされて、十一時半には家を出た。

彼はいつものツナギを脱いで、スラックスにシャツとジャケットという、あくまで普通の装いに身を包んでいた。

「なんだかいつもと全然違います」

とわたしが言うと。

「だって、産科病棟に入るのにツナギじゃね。普通のカッコが一番目立たないでしょ。

僕も昔は普通のサラリーマンでしたからね、こういう服の一着や二着は持ってるんです」

どうです、似合いませんか? と真顔で尋ねられ、わたしは笑って誤魔化した。

龍のツナギの木島さんは何処か近寄り難い雰囲気だけど、今日の彼は普通にカッコ良かったのだ。

「靴下なんて久々履くなぁ」

なんて言いながら、スエードのデザートブーツを部屋から持ち出してきた。

わたしはユニクロのスキニージーンズにニットのチュニック、コートの代わりに大判のウールのストールを羽織った。

歩くと結構暑くなるのだ。

「さ、行きましょうか」

歩き出した木島さんの後をわたしは必死に追った。
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