ラララ吉祥寺

「文子さん、お腹空きませんか? お好み焼き食べましょう」

わたしの沈黙を空腹と勘違いしたのか、木島さんがにこやかに立ち上がった。

「若者は食べ物で釣るに限りますよ。

ソースの焦げた匂いを嗅いだら、腹が減ってなくても食いたくなるでしょ」

木島さんは嬉しそうに台所に立つとキャベツを刻み出した。

「やっぱり基本は豚玉でしょ」

そう言いながら、キャベツの沢山入った生地をホットプレートに丸く広げていく木島さん。

その上に綺麗に豚のバラ肉を並べていく。

「いやほんと、こんなに栄養のバランスの取れた食べ物も珍しいですよね」

うどんも蕎麦も、具無しじゃ片手落ちだし、と木島さんは返しコテを持ったまま呟いた。

「鍋もバランス食ですよ」

わたしも負けじと、台所を預かるプライドから木島さんに対抗する。

「確かに……、日本の食文化は奥が深いですね。

では、明日は鍋にしましょう」

おっ、そろそろいいですね、と木島さんはお好み焼きをコテで器用にひっくり返した。
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