ラララ吉祥寺

わたしはしばし呆然と外を見ていた。

<ダダダダダ……>

と、階段を駆け下りる凄まじい音が家中に響いた。

「文子さん、どうしました?!」

大きな声に振り向くと、そこには、スウェットの上下に着替えた木島さんがいた。

「えっ、あの……、今、庭に人影が見えて……」

木島さんは窓に近づくと、外を慎重に伺った。

「今は、居ないようですね」

悲鳴が聞こえてびっくりしました、と、まだ少し荒い息を押し殺すように彼が呟いた。

「はい。わたしの声に驚いて塀を越えて逃げたようです」

「近頃、この辺りで空き巣が頻発しているそうです。

戸締りには気をつけないといけないな」

その時わたしが震えたのは、怖さでは無く寒さだったのだけれど。

「脅かしている訳じゃありませんよ。あ、寒いですね。すいません」

ドア閉めましょう、と彼はわたしの代わりにドアを閉めてくれた。

「木島さん?

あの……、さっきはすいませんでした。

話の途中で逃げてしまって」

わたしは小さく頭を下げた。

「いや、僕の方こそ、文子さんの気持ちも考えずに余計なこと言いました」

「わたしの気持ちより何より、芽衣さんの……、芽衣さんの事情を優先させるべきですよね」

そう言ったわたしの声は、少し震えていたのだと思う。

それは、感情の昂ぶりか、寒さのせいか。

わたしにもはっきりわからなかったけれど。
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