＊政略結婚＊

裕二は、ぎゅっと拳を握り俯いている。
「父さん、どうゆうことか、きちんと説明して！証文書ってなに？そんなの書いたなんて聞いてないんだけど！」
由香は、裕二に近寄り力ない体をゆすりながら問いかける。
しかし、裕二は俯くだけ。
「由香さん、落ち着きなさい」
喜美江は、お茶を啜りながら制する。
だが、納得のいかない由香は、裕二の体を思いっきり突き飛ばす。それを見ていた喜美江は、驚きに目を見張る
「由香さん！なんてことするの！」
「黙ってていただけますか？今、あなたに構っている余裕は微塵もないので」
由香は、冷たくいい放つ。
大きく目を張り、無言になった喜美江をほっといて、由香は倒れたまま動かない裕二を睨みつける。
「今思えば、おかしなことだったのよね。
急にお見合いの話持ってきて、ここに来るまでに何回も受けないかばっかり。
でも、さっきの話聞いて納得したわ。
そりゃ断われないわよね？
証文書なんて、早く言えば契約書だもの。
しかも、断れない。
私は…初めからここに来ても来なくてもおんなじだった。
売られたのね、私」
「ゆ、ゆか」
裕二は泣きそうな表情で由香を見る。
しかし、由香はただ冷たい眼差して裕二を見据えるだけだった。
そして、ゆっくりと由香は喜美江たちの方を見やる。
「あなたがたは、私を買うんですね？」
「由香さん、私はそんなことは」
「ないと？
でも同じ事ですよね？
借金肩代わりの担保として、私はあなたがたに売られたわけですから」
由香は、冷めた表情で言い放ち、そして、二人に条件があると言ってきた。
「条件？」
「はい。
今回のこの申し入れは、何がなんでも断ることができないようですので、腑に落ちませんが、受け入れるしかない。
ですが、それはある一定の期間まで保留とさせていただけませんか？」
「…それは、どういうことですの？」
喜美江は、意味がわからないと言ったように首を捻る。
「私に、1年の猶予をください。
私は、今の彼に借金の事を打ち明けました。
そして、500万を用意してくれる手はずを整えてくれました。
あとの500万は、私が何とか働いて返して行きます。もし、返済出来なかった場合には、この話をお受けいたします。」
由香は、ギリっと拳を握りながら言い放つ。
これが、最後の掛けだった。
しかし…
「それは呑めない相談だな」
「…っ、」
今まで黙っていた 晴眞が、硬い声色で否定してきたのだ。

「あんたは、もう俺の婚約者として親戚には公表してあり、帳消しにはできない。
1年の猶予なんて、あっても無いに等しい抵抗なんだよ。あんたの彼が、高々500万用意するからなんだ？
こっちは全額だ。
苦しい思いなんかしないで借金は返せるんだ。
黙って、君はこちらに来ればいいんだよ。」