*政略結婚*
晴眞は、良く通る低い声色でそれだけ言い放つ。
「さて、お互い紹介し合った所で、食事と致しましょう。」
喜美江は、コロコロ笑いながら軽く両手を叩く。すると、ゆっくりと扉が開き、お膳を持った数名の中居が中に入ってきた。
瞬く間に食事が綺麗に並べられる。
「さぁ、頂きましょう?
遠慮なさらないでね?」
喜美江は、さぁ、と由香や裕二に勧めてくる。
「…ありがとうございます。
しかしその前に、お話ししたい事がございます」
「…由香」
由香の言葉に、裕二は力無く呼ぶ。
しかし、由香は気にする事無く、真っ直ぐ喜美江を見つめる。
「…お話しとは、なんですか?」
喜美江は、由香をしっかり見つめ問いかける。
「……はい。
実は……、誠勝手ではございますが、この縁談は、無かった事にして頂きたいのです」
「…無かった事に?
また、どうして?何か不都合でも?」
「不都合といいますか…、
私の問題でございまして。」
「…それでは、このお話はお受けできないと?」
「はい、実は…
わたしには、既に心に決めた方がいらっしゃいます。
今回の申し入れは、大変ありがたいとはおもっています。
しかし、どうしても、わたしはかの人と結ばれたいのです。
失礼とは存じております。
どうか、ご理解下さいませんでしょうか!」
少し後ろへ後退すると、ゆっくり頭を下げ、懇願する。
「…そうでしたか」
喜美江は、静かに言い放つ、
「…っ、喜美江様っ、私が相談した事とは言え、無礼は承知!どうか、お願い致します!」
「…父さん」
由香は驚きの眼差しで裕二をみる。
さっきまで納得していなかった裕二が、まさか口添えしてくれるとは、思わなかったのである。
「…そうですか。残念です」
喜美江は、力無く言い放つ。
「…ではっ、」
由香と裕二は、期待の眼差しで喜美江を見る。
と、喜美江は、ゆっくりと2人を見つめた。
「申し訳ないのですが、あちらの方に諦めて頂きましょう。」
「……え?」
由香は、キョトンと喜美江を見る。
「あなたに、恋人がいる事は知っていました。」
「…え、え?なぜ…」
戸惑いが隠せない。
「事前にあなたの事については探偵を雇って調べはついていました」
「……探偵」
「気分を害する事は重々承知しています。
しかし、この縁談が持ち上がり許可を頂いてから、一族の者に婚約者として通達する為に、どのような人物か知らなくてはいけません。
結果を聞いた時は年頃の娘さんですもの、殿方の1人は居るだろうと予想はついていたので、驚きはしませんでしたね。それ以外では特に不都合はなく、申し分ありませんでした。
あなたは、仕事熱心のようですし、我々の一族に入ってもなんら問題はない。
なら、このままあなたには息子の婚約者として、付き合っていただきましょうと、一族での話し合いで決まりました。」
「……私の意見や気持ちは………範疇にないのですか?」
由香は、ふつふつと湧き上がる怒りをなんとか抑えながら、静かに問いかける。
「範疇にないのではありません。
あなたには、選ぶ権利はないので す。」
「選ぶ権利はない?
私がどうするか決める事に、権利は関係ないと思いますが………」
喜美江の当たり前といった口調に、握り拳を作る。
しかし、喜美江はふふふ、と笑いながら一枚のファイルを取り出した。
「なんですか?」
「あなたのお父様に書いて頂いた証文書です。これにより、あなたは何が起きようと、私達の一族から逃れることは出来ません。」
「なっ、!」
由香は、それを言われて勢いよく父を見る。
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