こいのはなし
これについてはお互い様だと本気で思っている。
彼もまた私と同様「仕事の切りがつかない」という理由で前回だけでなく、何十回も遅刻している。
そのせいなのかどうかはわからないけれど、社会人になってから暇を潰すための本を携帯するようになった。
その本は大概ビジネス関連のもので、人から言われなくても自分が仕事依存に片足を突っ込んでいることは自覚している。
そして彼も同様で、彼の仕事カバンの中にビジネス書があることを知っている。
私も同じように遅刻を繰り返している。
「なぁ、あの二人見てみろよ」
彼は煙草で指し示している。
灯りの隙間から、混ざりあうような黒い塊がある。
人と判断するには私の視力がわるい。
「若いってすごいな。大胆」
俺たちに見せつけているのかなと、彼は苦笑した。
「こんなオジサンには、そんなマネできねぇよ」
なにしているのと聞くとキスしていると教えてくれた。