それでも、愛していいですか。
このまま孝太郎の体温を感じていたかったが、アパートにはすぐに着いてしまった。
加菜はひょいっと荷台から降りると、「ああ、気持ちよかった」と明るく笑った。
「自転車って、風が気持ちいいよね」
孝太郎も爽やかに笑う。
「今日は、本当にありがとう。嬉しかった」
「うん。こちらこそ。楽しかったよ」
孝太郎がそう言って微笑むと、加菜もやわらかい笑顔を浮かべた。
そして。
加菜はすっと孝太郎に一歩歩み寄り、孝太郎の袖をきゅっとつかむと。
唇に柔らかい感触。
一瞬なにが起こったのかわからなかった孝太郎は、目を見開いたまま動けなかった。
唇が離れると、孝太郎はただただ目の前の加菜を見つめた。
「……好き」
「……え?」
加菜の突然の告白に言葉を失ってしまった。
二人の視線が交わる。
「孝太郎くんが好きなのは、奈緒だってわかってる。あのアパートに引っ越してきたのだって、偶然じゃないよね」
加菜の完璧な読みに苦笑するしかなかった。
「あの馬鹿は未だに偶然だと信じ込んでるけどね。でも、あいつは他に好きなヤツいるから……」
孝太郎はジーパンのポケットに手を突っ込んで、アスファルトを見つめる。
その時、真夏の夜風が二人の間を通り抜けた。