それでも、愛していいですか。
初めてのバーは、君島の行きつけということもあり、とても居心地が良かった。
落ち着いた音楽と、穏やかな時間、そして他愛のない友人同士の会話と笑顔。
「いいなぁ、先生は。うらやましいなぁ」
汗をかいているグラスを意味もなく触ってしまう。
「どうして?」
「だって、先生格好いいし、ちゃんと先生やってるし、こんなに楽しい友達もいて。こんな素敵な隠れ家まであって。私なんて、試験は全滅だし、阿久津……」
先生は……と言いかけて、慌てて言葉を飲みこんだ。
「阿久津先生が、なに?」
君島は頬杖をついてのぞき込む。
顔が近くて、耳が赤くなるのがわかった。
「な、なんでもないです」
よけいなことを言わなければよかったと後悔した時にはもう遅く。