それでも、愛していいですか。

初めてのバーは、君島の行きつけということもあり、とても居心地が良かった。

落ち着いた音楽と、穏やかな時間、そして他愛のない友人同士の会話と笑顔。

「いいなぁ、先生は。うらやましいなぁ」

汗をかいているグラスを意味もなく触ってしまう。

「どうして?」

「だって、先生格好いいし、ちゃんと先生やってるし、こんなに楽しい友達もいて。こんな素敵な隠れ家まであって。私なんて、試験は全滅だし、阿久津……」

先生は……と言いかけて、慌てて言葉を飲みこんだ。

「阿久津先生が、なに?」

君島は頬杖をついてのぞき込む。

顔が近くて、耳が赤くなるのがわかった。

「な、なんでもないです」

よけいなことを言わなければよかったと後悔した時にはもう遅く。

< 129 / 303 >

この作品をシェア

pagetop