それでも、愛していいですか。
「だけど……なんだかんだ言って、ちゃんと預かっていったね。あの先生」
阿久津が出ていった扉を眺めながらシュンが呟いた。
「あの二人には、このくらいのハプニングが必要なんだよ。キスは予定外だったけど」
「え?あの先生も、奈緒ちゃんのことが好きなの?」
「さあね。まあでも、あの恋がうまくいってもいかなくても、これで少しは前に進めるだろ。立ち止まっていたら、終わらせることすらできないからね」
君島は奈緒が残していった水を一口飲んだ。
「立ち止まりっぱなしの人が言うかね、それを」
含みを持ったシュンの言葉に、君島の眉がぴくりと動いた。
しかし、苦笑するしかなかった。
初恋をいつまでも引きずっているなんて台詞は、10代や20代の子が言うならともかく、35歳にもなった男ともなると、世間だけでなく自分自身ですら若干引く。
しかし、そのせいで、パートナーになれそうな人が現れても、つい比べてしまったり。
いい加減忘れようと軽い気持ちで恋愛を楽しんでみようとすれば、二股をかけられていたり。
まったくもって、自分のことは器用にこなせない。
「シュン、ハイボール」
「……はいはい」