それでも、愛していいですか。

阿久津は大きく深呼吸をした。

美咲を見下ろす。

そして、左胸にある彼女の手をつかみ、そっと自分から離すと。

「俺は、支えてもらわなくちゃいけないような男か?」

美咲をまっすぐ見つめる。

美咲は少し動揺し、「そういう意味で言ったんじゃないよ」と静かに反論した。

「哀れな男として見ないでくれよ」

「そうじゃない」

美咲は大きく首を横に振った。

「悪いが、帰ってくれないか」

阿久津はうつむいたまま低い声で呟いた。

美咲が動けずにその場に立ち尽くしていると、「頼むから!」と少し声を荒げた。

普段声を荒げない阿久津にびくっとした美咲は、ただ唇をかみしめ、研究室を出ていった。

美咲が出ていくと、阿久津は力が抜けて椅子にへたれこんだ。





< 168 / 303 >

この作品をシェア

pagetop