それでも、愛していいですか。
「先生!」
その声に阿久津はほんの少し顔を上げたが、またすぐにうつむいた。
うつろな目をしている。
そしてかなり、お酒の匂いがした。
奈緒は阿久津の前に立つと、傘を差し出して雨から彼を守った。
目の前の阿久津はずぶ濡れで、雨が髪から顔を伝い、そして顎から滴り落ちている。
胸が絞めつけられた。
あまりの憔悴(しょうすい)ぶりに言葉が出なかった。
ただ、傘を差し出したまま奈緒はそこに立っていた。
長い沈黙。
ただ、振り続ける雨。
静かな雨の音が二人を包んでいた。
たまらなかった。
こんな姿の阿久津を想像もしたことがなかっただけに、激しく動揺した。
「こんなところにいたら、風邪ひいちゃいます……」
これを言うのが精一杯だった。
阿久津はそれには答えず、ただうなだれている。
事情を尋ねてはいけない気がして、「どうしたんですか?」が言えなかった。