それでも、愛していいですか。
「風邪ひいちゃう……」
奈緒は傘を首と肩で支えながら、バッグからハンカチを取り出し、阿久津の頬の滴を拭った。
阿久津は抵抗せず、されるがままだ。
「先生、帰りましょう」
奈緒は穏やかにそう言った。
そして身体中の勇気を振り絞り、阿久津の手首をつかんで起こそうとした。
阿久津はうなだれたまま、奈緒に従い立ち上がった。
奈緒は背の高い阿久津を雨から守るために、腕をピンと伸ばして傘をさした。
阿久津はその場に呆然と立ち尽くしている。
うなだれたまま、顔を上げようともしない。
その表情はまるで抜け殻で、死人のようだった。
奈緒が遠慮がちに阿久津の袖を引っ張り「行きましょう」と声をかけると、阿久津はなんとか一歩目を踏み出した。
阿久津は奈緒に引っ張られるかたちで、よろよろと力なく従う。