それでも、愛していいですか。
突然、後ろから阿久津に手首をつかまれた。
心臓が止まるかと思った。
おそるおそる振り返ると、阿久津は黙ってうつむいている。
二人の間に流れる、長く感じる沈黙。
その時、阿久津の手が震えているのに気がついた。
……先生は、いったいどうしてしまったのだろう。
すると、阿久津が消えそうな声で呟いた。
「俺を、一人にしないでくれ……」
「え……」
動けなかった。
それは、どういう意味?
ただ呆然としていると、阿久津は奈緒の手を引いてマンションの中へ誘い入れた。
その時、エレベーターから一人の女性がロビーに降り立った。
その女性はずぶ濡れの男性が若い女の子の手を引いている様子が異様に映ったようで、すれ違いざまも、じろりと見つめて視線をそらさなかった。
奈緒は手を引かれるまま、阿久津について行った。