それでも、愛していいですか。

「言えないような人なの?」

その一言に、一瞬手が止まってしまった。

「まさか……あの、ゼミ生の……?」

その呟きに反論しない阿久津に、美咲は「冗談でしょ……」と漏らした。

「そんなの許されない。だって、彼女、まだ学生じゃない。それに、お姉ちゃんにどう説明する気?」

突き刺さった。

彼女が学生であることもそうだが、由美のことを言われるのがなにより辛い。

沈黙を守る阿久津を見つめながら、美咲は大きなため息をつき。

「涼介さん。聞いて。あの子のことが本気なら、彼女を諦めるのが愛情だと、私は思う」

美咲はまっすぐ阿久津を見つめた。

「まだ19か20歳(はたち)でしょ。そんな歳の女の子に、涼介さんの背負っているものを受け止めさせるのは、重すぎるわ。彼女の幸せを願うなら、重い荷物のない、同世代の普通の男の子と恋愛させてあげるのが、私は愛情だと思う」

美咲の声は、とても冷静だった。

< 221 / 303 >

この作品をシェア

pagetop