それでも、愛していいですか。
「すっごく優しいんだけど、その優しさの意味がわからないっていうか……」
声がだんだん小さくなっていく。
「なるほどねぇ」
誰にでも平等に優しい性格のせいだ、と奈緒は思った。
しかしまさか加菜のその言葉の裏に、
『他に好きな人がいるのかも。それはひょっとしたら、奈緒なのかも。だから友達のあたしにも優しいのかも』
という思いが隠れていたなんてことに、奈緒はまったく気づいていなかった。
その日の夜、日数としてはそれほど休んでいたわけでもなかったが、バタバタと忙しい日々が続いたので、喫茶店へアルバイトに行くのはとても久しぶりに感じた。
「お休みしてすみませんでした」
黒いエプロンを後ろ手に結びながらマスターに謝ると、
「いえいえ。それより、大丈夫ですか?」
と優しく声をかけてくれた。
「はい、ありがとうございます」
少し久しぶりだったこの空間は、ほっとさせてくれた。
マスターの穏やかな空気と、コーヒーの香り。
そして、夜9時を回る頃そこに毎度やってくる、君島准教授。