それでも、愛していいですか。
この人は、確か。……そうだ。
阿久津先生の奥さんの妹だ。
孝太郎と一緒に行ったカフェで会った、あの人だ。
黒髪のきれいな店員は、自分に向けられた奈緒の視線に気づき、
「なにかお探しですか?」
と声をかけた。
「いえ、あ、別に……」
奈緒が言いよどんでいると、店員はなにかを思い出したような顔をして、
「あ。ひょっとして、この前、この近くのカフェで会った?私が涼介さんと一緒にいた時」
「涼介さん」という響きに少しズキッとした。
……そうか。
この人にとって阿久津先生は、涼介さんなんだ。
「あ、そ、そうです……」
「やっぱり!すごい偶然だねぇ」
奈緒は自分が覚えられていたことに驚いた。
女性が首からぶら下げている名札をちらりと見ると、「店長 大川美咲」と書かれていた。
自立している美咲と、ただの学生の自分を比較してしまい、少し胸が痛んだ。
「そ、そうですね……私も、びっくりしました」
「涼介さんの生徒さん?」
「はい……今、阿久津先生のゼミでお世話になってます」
「そうなんだぁ」
美咲はそう言って、奈緒を品定めするように視線をすばやく上下させた。