箱の中の彼女


 押し、流される。

 孝太は、まるで激流のようだった。

 美奈子が、何かを考えようとする暇も与えないほど、唇は奪われ続ける。

 彼は、こんなにも激しい生き物だったのだと、いま彼女は自分の唇を持ってして思い知らされるのだ。

 不快ではない。

 不快ではないから困る。

 何故なら、美奈子は彼よりも10は年上で。

 自分は、こんな声で。

 彼のことを、何も知らなくて。

「「ま、まって…待って孝太くん」」

 消し飛びそうな理性をかき集め、彼女は孝太を止めようとした。

 性急な手に、胸を探られたのだ。

 はっと。

 彼の手が、そこで止まる。

「オレ…間違えましたか? 美奈子さんに嫌なこと、してますか?」

 孝太の懸命の目が、そこにある。

 男の子なのに。

 手を震わせて、泣きそうな目をしている。

 ああ。

 この子は、素直でまっすぐで──ただ一途なのだ。

 そんなこと、最初から分かっていたではないか。

 彼が好きだと言ったのなら、本当に美奈子のことが好きなのだ。

「「だって…10も年上よ」」

「オレ、稼げるようになりました…これからも稼ぎます。美奈子さんより、稼ぎます! 10歳分より多く稼ぎます!」

「「こんな、声よ」」

「オレ、美奈子さんの声、絶対に聞き間違えません。絶対に!」

「「孝太くんのこと…何も知らないわ」」

「岡崎孝太、19歳! 職業はプロボクサーです。今日ベルト取って来ました! 他は、何もありません!」

 プロ、ボクサー。

 とどめ、だった。

 どんな美奈子の思う障害も、孝太は孝太理論でまっすぐに打ち返すのだ。

 そして、最後の一撃がプロボクサー。

 道理で。

 いつも、顔が腫れていたわけだ。

 ケンカだとか、先輩にいじめられているだとか、見当はずれな想像をしていた自分に笑うしか出来なくなったのだった。
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