箱の中の彼女


 美奈子の身体が、自分の腕の中にある。

 その感触に戸惑いつつも、孝太は離せなかった。

 これが、欲しかったのだ。

 いや、この人が。

 ぎゅうぎゅうに抱きしめる。

 会いたかった。

 抱きしめたかった。

 その思いをもう、孝太はこらえきれなかったのだ。

 チャンピオンになった。

 ちゃんと、美奈子に見合う、稼げる男になったつもりだ。

 だから。

 だから、何の障害もないと思った。

「「こ、孝太くん?」」

 腕の中の美奈子が戸惑って、彼を呼ぶ。

「オレ…好きです。美奈子さんのこと…好きです」

 やっと。

 本当に、やっと言えた。

 言ったら。

 完全に、タガがぶち飛んだ。

「「え? こ、孝太く…っ」」

 戸惑う唇を奪った。

 腫れているせいで、半分以上感覚が死んでいて。

 その死んでいる自分の唇が憎らしく、更に強く彼女に押し付ける。

 だが。

 孝太は、ひとつ忘れていたのだ。

 美奈子が、自分のことをどう思っているのか。

 勝ったことと、彼女に再会したことで一人盛り上がり、すかっとその重大な点を抜かしていたのである。

 ただただ夢中で。

 彼女の唇を、貪り続けた。
< 22 / 31 >

この作品をシェア

pagetop