チェリとルイル
 わ、分かりにくい。

 チェリは、がっくりと肩を落とした。

 だが、そこがつながると、ここまでの流れが、少し見えてくる気がした。

 昨日。

 初めて扉が開いた。

 この人は、彼女を家に招こうとしたのだろうか。

 結果的にチェリは、足を踏み入れた。

 お茶の支度がしてあった。

 あれは、もしかして自分のためのものだったのか。

 しかし、彼女は帰ってしまった。

 今日。

 扉が開いていた。

 テーブルのお茶も焼き菓子も、自分のために用意されたものなのか。

 何故、今日は焼き菓子が増えていたのか。

 扉が閉まったのは、帰ろうとした自分を──引き止めたかったのか。

 椅子が、ガタガタと暴れたのは、座らせたかったのか。

 それらを全部ひっくるめた結果。

 何で?

 チェリは、ますます首をひねることとなったのだ。

 そこまでして、丁重に招かれる理由に、心当たりなどあろうはずもない。

 だから、聞いてみることにした。

「あの……どうして、私を入れてくれたんですか?」

 村の人は、この家にさえもたどりつけないというのに。

 すると、彼はしばし虚空を見つめた後にこう言うのだ。

「長い間、上層にいると余計なものまで見える。だから、久方ぶりに降りることにしただけだ」

 難解どころか、意味不明すぎる言葉が並んだだけ。

 少なくとも、チェリの頭ではさっぱり分からない。

「降りるには……助けが必要だ」

 だが、最後の言葉だけなら何とか分かった。

 そっか、と。

 どこからか来るために、助けが必要だったのか。

 その助けとやらが、たまたま通りかかったチェリだったというのだろう。

「ええと、おかえりなさい?」

 言葉をうまく探せないまま、彼女はそう男の帰還(?)をねぎらった。

 彼は、非常に不快そうに顔を歪めるだけだった。

 どうやら。

 言葉を間違ったらしい。


 ※


「あ、じゃあ、やっぱり違うんだ!」

 ふと。

 チェリの頭に、ピカーンとお日様が輝いた。

 喜びの閃きだった。

「いままで、違うところに行ってたんですよね? じゃあ、じゃあ、村の出来事とは関係ないんですよね?」

 そう。

 それが、彼女がこの家を訪れる、当初の目的だったのだ。

 村のひどい事象の原因は、魔法使いのせいではないか。

 そんな、村の人の疑問の確認をするために来たのだから。

 態度や言葉はどうあれ、この人はそんな意地悪には見えなかった。

 どちらかというと、人と関わりたがらない世捨て人、という感じだ。

 チェリが、こうしていられるのも、たまたま彼が降りる(?)のに必要だったから。

「答えることも馬鹿らしい」

 村で何と言われていたのか、知っているようだ。

 何故、自分がそんなことをしなければならないのか。

 憤りさえ感じる声だった。

「そう……ですよね……関係ないに決まってますよね」

 しかし、チェリは嬉しくて嬉しくてしょうがない。

 違いました―と、町の人に言えば、それで済む。

 魔法使いを退治なんていうルイルの口には、このおいしいお菓子を放り込めばいい。

 そう考えると、肩の荷も降りて、とてもにこにこになってしまうのだ。

 人を疑ったり、傷つけたり──そういうことは、自分には向いていない。

 はあ、よかった。

 これで、またいつも通りに戻れる。

 そう思った次の瞬間。

 ピカーッ!

 窓の外が、真っ白に光った。

 ゴロピシャドカーン!

 直後に響き渡る、巨大な落雷音。

 降り出す豪雨。

 快晴だった空が、まるで嘘のような嵐になった。

 チェリが窓の外を見て、唖然としていると。

「もう見つけたか……」

 やれやれ。

 男が、椅子から立ち上がった。

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