涙のあとの笑顔
 イーディは今日は疲れているようだったから、自分も早めに寝ることにして、ゆっくり休んでもらうように言った。

「さてと・・・・・・」

 少しだけ風に当たってから寝ようと外へ出た。風は心地よく、髪を靡かせていた。
 今日は満月。どんなに手を伸ばしても届かないもの。まるで誰かに似ている。

「綺麗」

 そのとき強い風がふいて、とっさに髪を押さえた。

「偶然だね、フローラ」

 足音をたてずに現れたのはケヴィンだった。

「いつからいたの?」
「たった今だよ。散歩をしていたら、可愛い女の子がいたから声をかけたんだ」

 私が何も言わずにいると、笑顔のまま、私のところへ来た。

「何で黙っているの?」
「本当はもっと前から私を見つけていたように思えるの」 
「さすがだね、その通りだよ。声をかけたら警戒するでしょ?今みたいに」
「それは・・・・・・」
「そう変えたのは俺?俺自身も変わったよ。フローラが変わったように」

 ケヴィンが変わった?私から見て彼が変わったところは密着度が前より増したくらいよ。

「フローラを見ていると、本当に飽きない。あのときからさらにそう思うようになったよ、誰にも渡さない」

 強く抱きしめたあとにキスまでされた。腕でケヴィンを押しても動かない。いつもより長く、呼吸ができない。
 必死に息を整えている私を余裕の顔をしながらケヴィンは見ている。腹が立って、胸を拳で叩くが、これっぽっちも痛がっていない。

「痛いな」

 笑いながら胸を押さえている。

「そうは見えないよ。もういい、寝る」

 歩き出すと、当然のようについてくる。

「方向が違うよね?」
「ううん、こっちだよ」

 こっちに何か用事があるのかな?

「どこに向かうの?」
「フローラの部屋」

 全身が硬直したのは言うまでもなかった。

「何で私の部屋に来るの!?」
「最近眠れないから、安眠枕で眠ればいい夢を見ることができそうじゃない?」

 歩いていたが、自分の部屋まで大急ぎで走った。

「待って、どうしていきなり走るの?」
「きゃあ!追いかけて来ないで!」

 何で私達は鬼ごっこをしているの!?周りはもう眠っているから迷惑だよ!
 部屋に入り、ドアを閉めようとしたが、靴が挟まっている。

「足を引っ込めて!きゃっ!」

 この人、力任せにドアを開けたよ。こんなことなら外に出なきゃ良かった。

「よいしょ」

 足が床についていない。な、何をする気!?
 ケヴィンは私を抱き上げて、ベッドまで移動している。じたばたしていると、ベッドの上に投げられ、両手を押さえつけられた。
 やばいよ、だ、誰か、イーディ!
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